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松山地方裁判所 昭和26年(ワ)15号 判決

原告 武田勝市

被告 株式会社新愛媛新聞社

当事者参加人 原亀一 外二名

一、主  文

原告の請求を棄却する。

被告会社が昭和二十六年一月四日の臨時株主総会において為した取締役武田勝市を解任する旨の決議並に同総会において為した原亀一、菅野省三を各取締役に選任する旨の決議は何れも有効であることを確定する。

訴訟費用中参加に因つて生じた部分は原告及び被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、

第一、被告に対し被告会社が昭和二十六年一月四日臨時株主総会において為した取締役武田勝市の解任決議並に同総会において為した原亀一、菅野省三を各取締役と為す選任決議は孰れも無効とする、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、

(一)  被告会社は今治市大字今治村甲三百七十六番地に本店を有する資本金四百万円総株式数四万株、一株の金額金百円の株式会社であつて、原告は同会社の五千八百三十株の株主で代表取締役である。

(二)(1)  被告会社は参加人前社長原亀一が大部分の株式を所有して経営に当つていたのであるが、右参加人の病気と会社の財政的窮迫のため同参加人の懇望によつて昭和二十五年四月二十六日原告は参加人原等より久保正一の一千株を除く残り三万九千株の株式の譲渡を受けて(その対価として差当り経営継続に必要な五百万円余の原の個人債務を引受け代つて支払うこととしたものであり又株式譲渡は所謂白紙委任状附株式の譲渡であつて、白紙委任状には株券発行後の交付請求権及び名義書換請求権を含んでいるものである)経営一切を引受けることとなり新に出資者を得て会社の再建に努力していたところ、参加人菅野省三等は前社長原亀一をそそのかし不法にも昭和二十六年一月四日参加人たる監査役久保正一の招集による株主総会なりと称して全然株主でない数名が集つて原告の取締役解任、原亀一、菅野省三各取締役選任の決議ありとして右旨の決議録を作成して同年一月六日その旨の変更登記を経了したのである。

然るに右は正当な株主に招集通知を発しないのはもとより、既に株主権を喪失した株主でない者の集合による決議であつて法律上何等意味のない当然無効の決議である。

(2)  仮りに原告への株式譲渡が無効であつて、参加人原亀一等に株主権があつたとしても決議数に対する影響の有無に拘らず、各一千株の決議権を有する株主たる亀井芳晴、岡田浩を故意に招集しなかつたものであるから、右は単に招集手続に違反せるものとは異り総会決議に不法性ありて当然無効である。

(三)  仮りに当然無効に非ずとするも、本件決議は法定の期間を存して招集状を発したことは認められるけれども該招集状には請求の趣旨記載の如き目的事項と異る招集の目的事項が記載されていたものであるから、招集手続並にこれに基く決議は取消し得べき瑕疵があるから、ここに該決議の取消を求める。

(四)  又仮りに以上何れも理由がないとしても、参加人原亀一等のした本件株主総会の決議は、公序良俗乃至は信義誠実の原則に反し、権利の濫用であるから無効である。

(1)  即ち被告会社の前社長である参加人原亀一が退任して原告が之に代つて代表取締役として新聞を経営するに至つた経緯を詳述するに、昭和二十五年四月中旬頃原告はその日自宅に参加人原の訪問を受け、被告新愛媛新聞社の引受経営を依頼されたが、原告は当時病気中であり、且原告の本業は綿布業で新聞経営については全然経験がなかつたから之を拒絶した。然るに参加人原は阿部株式会社社長阿部和男、宮崎株式会社社長宮崎勝行を訪ね更に懇請した結果四月二十日頃前記阿部、宮崎及び原告並に参加人原の四名が今治市千歳旅館において新聞の経営を引受ける引受けないということは別にして、原告において新聞社の内容を調査することとなつた。その調査の結果被告会社は資産としては広告料の未收金五万円(帳簿上は未收金百四万七千五百七十円であるも集金可能額は金五万円とする)四月分新聞代金九十一万五千六百五十九円六十五銭合計資産九十六万五千六百五十九円六十五銭であつた。然るに新聞も休刊すれば新聞販売店より保証金としての預り金八十二万六千百九十五円差引かれることとなるので、実際四月三十日現在の資産金は十三万九千四百六十四円六十五銭に過ぎなかつた。

而してこれを経営するとすれば同年四月末迄に必要な金額は、

一、金百二十万二千円――三月四月分労務賃未払分

一、金百八十七万六千七十五円――用紙インキ諸材料未払分

一、金八十九万六千八百四十三円――通信費電話電信料未払分

一、金九十八万七千六百三十二円――失業保険健康保険料未払分

一、金約百万円――活字写真機輪転機修理費

計金五百九十六万二千五百五十円

であつて、之の外に尚多額の負債ありて当時の資産は前記の如く九十六万五千六百五十九円六十五銭に対して負債合計一千三百十六万七千円に達する状況にあつた。

即ち前記の如く同年四月末迄に約五百万円の金員を調達しなければ新聞用紙の支給、電報通信の供給は絶え、忽ち廃刊の運命をたどるより外途がなかつた。原告は調査の結果之を知り経営方法の乱暴と資金の枯渇に驚き到底如何ともなし難いから前示阿部、宮崎に之を報告して経営の引受を拒絶した。然るところ右阿部、宮崎、馬越晃、村上一その他今治市の有志二十数名は折角地方に生れた日刊新聞がこのまま廃刊となることは地方のためにも亦県民のためにも遺憾にたえず、又一方百人を超す従業員の給料未払と失業及び失業保険料未払の点を思う時は一大社会問題であるが故に有志において出来得る限り応援する故原告において整理継続されたしとの懇望もだし難く、遂に原告が之を引受けたのである。

参加人原亀一は新聞社長を名乗つていたが、新聞は参加人個人経営で前記債務等も参加人の個人債務で、以上の如き行き詰りを生じていたのであるが、別に同年四月六日資本金四百万円の被告会社が設立されていたが、それ迄は何等の仕事をもしていなかつた。而して被告会社の機械器具設備一切は株式会社伊予合同銀行今治支店に売渡担保として差入れられていたものである。

(2)  被告会社に対しては参加人原亀一が四万株の内三万二千株を所有し、残り八千株は参加人菅野省三、久保正一外六名が各一千株宛を所有していたので、原告が新聞経営を引受けるにつき参加人久保正一の一千株を除く残り三万九千株全部を白紙委任状附を以て原告が各株主より譲渡を受け、昭和二十五年六月十七日参加人原亀一は代表取締役なる地位を去り、原告が代表取締役に就任しその登記を完了した。

よつて原告は今治市、越智郡はもとより東は三島、西は八幡浜の間地方の有志の援助を求め、資金の出捐を得て株券を譲渡し前記五百数十万円の負債を支払い、人員の整理も行い参加人原亀一個人の他の負債を株券に振り替えるべく交渉の途上で、更に増資によつて活字附属品を買入れ、機械を修理して愛媛県の日刊新聞として恥しからぬ発展を希求していたもので、原告としては銀行その他資材買入先に個人保証責任を尽し専ら地方公共のために財的犠牲を払つて新聞の育成に努め、よつて援助を得た地方有力者の芳志に酬いんことを念願していたものである。

(3)  然るに参加人等は自己の株式を原告に白紙委任状附で譲渡し、原告等その他に多大の財産的損失を与え、やつと新聞の廃刊をまぬがれて置きながら、株券の発行なきを奇貨として原告等不知の間に依然株主なりとして(参加人久保正一のみは株式を譲渡せず他は全部譲渡す)会合し、原告の代表取締役たる地位を剥奪する総会決議をなし、之が登記を完了し株券の発行前の株式譲渡は会社に対し効力なしと云う規定を盾に依然会社に対し参加人等が株主であることを主張し、決議が適法なる株主によつてなされた決議である旨抗弁するけれども、株券発行前の株式譲渡は当事者間においては有効であることは勿論、会社に対する関係においても良俗違反の行為等と異り、単に効力発生の附加的要件たる株券の発行ということがらが備わらない為に効力が未発生の状態にとどまつているのであつて絶対無効というわけではない。

従つて譲渡当事者間においては株主権は実質上譲渡人から譲受人に移転し、譲渡人は実質上無権利者であり譲受人は実質上の株主である。ただ会社に対する関係において効力が未発生であるため、譲渡人は名義上の株主として株主権を行使する立場にあるのであるが、然乍ら譲渡人がこの株主権を行使するについては信託法理に基く受託者として譲受人のためにこれを行使すべきであつて、譲受人の意思を無視して自己の専恣に基きこれを行使することはできない。従つて譲渡人たる参加人等が譲受人たる原告の取締役たる地位を解任するため、譲受人の不利益に決議権を行使するが如きは、信託法理に基く受託者義務の違反であり、又民法第一条は権利の行使、義務の履行は信義に従い誠実に之を為すことを要す、権利の濫用は之を許さずと規定する。この法条によつて見るも、被告会社がその譲渡を承認しているにも拘らず(商法第二〇四条は会社において何人が株主なるか混交不明確となることを防ぐ意味にてかかる規定をおいたものと解する)且又昭和二十五年六月十七日原告が代表取締役に就任せる時は参加人原亀一、菅野省三等は株式の譲渡を認めておきながら(参加人久保正一は四万株中僅かに一千株を有する株主に過ぎないもので既に原、菅野等が白紙委任状をもつて所有全部の株式を原告に譲渡せる事実を知つているものである)同二十六年一月四日に至つてただ株券の発行がないのを奇貨として既に失つた株主権を依然共謀行使して株主総会において決議をなすは正しく信義誠実の原則に反し権利の濫用である。

又取締役解任の決議が形式的に存在するとしても決議の実質的内容は既に株主にあらざる何等関係のない無権利者が再び会社の代表取締役に就任し会社を横領奪取しようとする決議であるから、右は民法第九十条により無効である。

何れにして本件決議は民法第一条又は第九十条によつて当然無効である。

仍て右決議の無効乃至は取消を求めるために本訴請求に及ぶと陳述し、

第二、参加人等の請求に対し、

(一)  本案前の答弁として、

(イ)  参加人等は被告会社に対し総会決議の有効確認を求めるけれども、元来何人よりするも決議の有効確認を求めることはそれ自体不適法である。又殊に株主総会決議無効確認訴訟は会社を被告としてのみ提起し得る訴訟であつて、本件訴訟においては補助参加をなすべきものであつて、民事訴訟法第七十一条による参加人の参加は同法条の趣旨より当事者適格を欠き、参加人より決議の有効確認を求め得ないのみならず民事訴訟法第七十一条の要件を欠き不適法として却下すべきものである。

(ロ)  又参加人等は参加申出の理由として原被告間の訴訟の結果により当然参加人等の株主権の行使を侵害される虞があると主張するけれども、本件株式は参加人等より原告その他に譲渡せられ、株主権は実質上原告に移つておるのであるから、参加人等は訴訟の結果によつて権利を害せられる筋合ではない。仮りに形式的に権利を害せられたとしても、斯る主張をなすことは民法第一条に反することとなり、参加の要件を欠くが故に参加人等の参加申出は不適法として却下すべきものである。

(二)  原告の訴の適法性について、

(イ)  本件決議無効確認の訴は決議後一ケ月以内に適法に提訴されているものであり、決議取消の訴は右無効確認の訴に包含されているものと解すべきであるから、決議取消の訴も出訴期間を経過したものとはいえなく適法なものである。

(ロ)  原告は株主として本件決議の無効確認又は取消を求めるものであるが、仮りに前示株式譲渡が無効で原告が株主でないとしても、被告会社においては定款上株主でない者でも会社の承認ある場合には取締役となり得るものであり、且原告は昭和二十五年六月十日の原始株主総会における有効な決議に基いて取締役に選任せられ、次いで代表取締役に就任し、その旨の登記を経了したもので爾来本件決議当時まで被告会社より之を承認されているものである。又仮りに右昭和二十五年六月十日の決議が無効にして原告が取締役でないとしても原告は本件決議無効確認の訴を求めるにつき、法律上の利害関係を持つておるから当事者適格を有するものである。

(三)  本案につき参加人等の請求を棄却する旨の判決を求め、答弁として、被告に対して陳述した請求原因事実第一の(一)乃至(四)と同旨の事実を陳述し、参加人主張事実中本件株式の譲渡は株券発行前のことであること、本件総会は監査役久保正一の招集に係るもので、昭和二十六年一月四日の出席者決議数は争わないが、その余の原告主張に反する点は否認する。と附演した。<立証省略>

被告訴訟代理人は原告の請求通りの判決を求め、答弁として、原告主張事実は全部之を認めると陳述し、参加人等の請求に対し参加人等の参加申立の却下又は請求棄却の判決を求め、答弁として、原告の答弁と同趣旨の陳述を為した。

参加人等訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。被告会社が昭和二十六年一月四日の臨時株主総会において為した取締役武田勝市の解任決議並に同総会において為した原亀一、菅野省三を各取締役となす旨の選任決議は何れも有効である。参加に因り生じた費用は原告及び被告の負担とするとの判決を求め、

(一)  その参加の理由として、

(1)  原告は被告会社に対し被告会社が昭和二十六年一月四日開催した臨時株主総会において為した取締役武田勝市の解任決議並に原亀一、菅野省三を各取締役と為す旨の選任決議は何れも無効とするとの株主総会決議無効確認訴訟を当裁判所に提起目下当裁判所において昭和二十六年(ワ)第一五号事件として繋属審理中であるところ、

(2)  参加人原亀一、同菅野省三は各被告会社の株式一千株を有する株主であり、且右総会の決議を以て何れも取締役に選任されたものであり、参加人久保正一は被告会社の株式一千株を有する株主且同会社創立以来の監査役であり、原告が本訴において無効と主張する株主総会の決議は参加人久保正一が監査役たる資格において招集し適法に成立した決議であることに相違はないが、原被告は当初から謀議馴合を以て本訴を一気に解決せんとする不法手段に出ているので、もし本件決議を無効とする判決が確定するならばその判決の効力は絶対のもので当事者以外の第三者をも覊束する結果となるので参加人等は株主権の行使(特に参加人原、同菅野は取締役の地位)を侵害されるもので参加人等は結局民事訴訟法第七十一条に所謂「訴訟ノ結果ニ因リテ権利ヲ害セラルヘキコトヲ主張スル第三者」に該当するから、同条に基き三名共同して当事者参加を申出る次第である。

(二)  その請求の原因として、

(1)  本件原告の訴の内決議の取消を求める部分は左の理由によつて、先ず不適法として却下せらるべきものである。

(イ) (a)原告は本訴株主総会においては各一千株を所有する株主なる亀井芳晴、岡田浩に対しては故意に招集通知を発しなかつたものであり又(b)招集通知に記載された会議の目的事項と異つた決議をしたものであるから該決議は取消の瑕疵を以つているものであり、(c)且本訴無効確認請求の内には取消請求をも含むもので結局法定の期間内に出訴したことに帰する旨主張するけれども、右の(b)の事実は之を認めるも(a)の事実は否認する。又(c)の法律的見解も妥当ではなく、右(a)(b)の事実は何れも決議取消の原因とはなつても無効の原因とはならないのである。

而して右取消の訴訟は当然には、本訴無効訴訟中には包含されるものではなく、該取消の訴訟は決議後既に一ケ月の出訴期間を経過した後に追加請求せられたものであるから不適法である。

(ロ) 又凡そ取消訴訟の原告たり得るものは株主、取締役、監査役又は清算人であることを要するところ、原告は本件訴提起当時並に現在においても監査役でもなく又清算人でもないことは勿論であるが、又株主乃至は取締役でもないのであるから原告の本件決議取消の訴訟は不適法である。

即ち原告が参加人原亀一外数名所有の被告会社の株式(但し久保正一所有の一千株を除く)につき名義書換に要する白紙委任状を各株主から交付を受けた事実はあるが、それは一時原告に対して被告会社の経営を委任する便宜手段のためにしたことであつて、真実株式を譲渡したものではない。又仮りに原告主張の日時株式の譲渡があつたとしても右は株券発行前にした株式の譲渡であるから、会社に対してその効力を生じないものである。従つて原告は何れにしても株主たる資格を取得したものとは謂えない。

次いで原告が昭和二十五年六月十日代表取締役に就任した旨の登記が同月十七日為されたという形式上の事実は認めるが、それは絶対無効な株主総会(尤も原始株主によるもの)の決議によつて就任したものであつて法律上は当初より取締役の資格のないものである。即ち、該総会決議は所謂持廻決議であるから当然無効である。仮りにそうでないとしても総会招集通知を欠く株主の任意の会合に基くものであるから之亦当然無効である。従つて原告は又該決議の無効判決の宣言をまつまでもなく、取締役たる資格を取得しなかつたものと謂うべきであるから、原告主張の取消訴訟の原告たる適格を有しないから不適法である。

(2)(イ)  原告が被告に対して主張した事実中被告会社が資本金四百万円、総株式数四万株、一株の金額百円で組織された株式会社であること、同会社は元参加人原亀一が大部分の株式(三万二千株)を所有して経営に当つていたが、同人が病弱のためその任に堪えず又会社の財政的窮乏のため昭和二十五年四月頃原亀一より事実上その経営を原告に委任し、原告において社運の挽回に努力していたこと、その後同二十六年一月四日同会社の監査役である参加人久保正一の招集による株主総会において原告の取締役を解任し、新に参加人原亀一同菅野省三の両名を取締役に選任する旨の決議を為し、これが決議録を作成して同年一月六日その変更登記をしたこと、被告会社株式中参加人久保正一の所有株一千株を除く三万九千株(原亀一の三万二千株、中村高雄、菅野省三、原高俊、亀井芳晴、森田茂、岡田浩、野口朝徳の各一千株宛計三万九千株)に対する各株主の作成に係る株式名義書換に要する白紙委任状を各株主から原告に交付したことは何れも争がない。而して、

(ロ)  原告は右三万九千株の株式を各株主から譲受けたもので、譲渡人は何れも株主たる資格を有しないから同人等が集合してなした決議は株主総会ではない旨主張し被告も原告の主張を認めているが、

(a) 各株式が前示白紙委任状を原告に交付したのは原告に会社経営を委任するための便宜手段に過ぎない。従つて株式譲渡につき何等の対価を定めず又現実に何等の代償を受けていない。勿論これを無償で譲渡する約束もないから真の株式譲渡契約なるものは最初から存在しない。右株式は記名式のものであるが白紙委任状に依る記名株式の譲渡は株券に白紙委任状を添付してこれを交付することが必要条件であり、この条件を備えて初めて商慣習法上の株式譲渡が認められるのであるが、当時株券は未発行であつて、株券は一株も交付されていないから右趣旨の株式譲渡も認められない。

原告は株式譲渡の白紙委任状には株式発行後の株券交付請求権及び名義書換請求権を含んでいると主張しているが、それはただ債権的の請求権があるというだけのことで、本件株主総会当時までに株券交付の事実がない以上、それを以つて原告の株主権を主張し前主の株主権を否定する理由とはならない。

(b) 仮りに株式譲渡の事実が認められるとしても、右の譲渡は株券発行前の株式譲渡であつて被告会社に対する関係においては何等の効果を生じないし、たとえ被告会社がこれを承認しても譲渡は依然として無効である。尤もその後株券は発行されたが(株券発行権の有無につき些か問題があるが敢えてここでは主張しない)後に株券の発行があつたからとて譲渡の効力を生ずることはないから本件株主総会は名実共に株主権のある株主の集会であつて、決して無資格者の集合ではない。即ち本件決議は昭和二十五年十二月二十一日附参加人たる久保正一監査役の招集状により同二十六年一月四日、参加人久保正一、同菅野省三、野口朝徳、森田茂出席、参加人原亀一、中村高雄は各委任状を提出して決議権を行使し亀井芳晴、岡田浩は各欠席で会合し、出席者全員一致の賛成により四万株の内三万八千株を以て決議したものである。

(3)  原告の被告に対して主張した前叙、第一(四)の事実中被告会社経営委任の経緯、被告会社の資産状態(尤も負債合計金一千三百十六万七千円とあるを否認する)に関する事実は争わないが、その他参加人主張事実と抵触する事実は凡て否認する。尚原告は参加人等が原告の株主権を否認することは公序良俗に反するとか信義誠実の原則に背くとか主張するが、これは商法第二〇四条の規定を全然無視したもので採用するに足りない。と陳述した。<立証省略>

三、理  由

第一、本件参加申出の適否について、

(一)  原告は被告会社に対し被告会社が昭和二十六年一月四日開催した臨時株主総会において為した取締役武田勝市(原告)の解任決議並に原亀一、菅野省三(両名共参加人)を各取締役と為す旨の選任決議は何れも無効とするとの総会決議無効確認訴訟を当裁判所に提起し、目下昭和二十六年(ワ)第一五号事件として繋属審理中であること、而して被告は原告の請求通りの判決を求め、原告の請求原因として主張する事実全部を自白せることは原被告間における弁論の全趣旨によつて明かである。而して参加人等は原被告の馴合訴訟によつて右決議無効の判決が確定すれば、参加人等の株主権の行使(特に参加人原亀一、同菅野省三は共に取締役の地位)を侵害されるから民事訴訟法第七十一条に則り当事者として原告の請求を棄却する、右決議を有効とする旨の判決を求めると述べ、之に対し原被告は、

(二)  先ず元来何人からするも総会決議の有効確認を求めることはそれ自体不適法であり、又殊に決議無効確認訴訟は会社を被告としてのみ提起しうる訴訟であるから本件訴訟においては補助参加をなすべきもので民事訴訟法第七十一条による当事者参加の申出をなすことは当事者適格を欠く旨抗弁するにつき按ずるに、

株式会社における株主総会の決議にして、殊にその旨の登記を経了している場合には該決議は無効判決(当然無効の場合を対象とする本件無効確認訴訟も当然無効の主張を含むことは原告の主張自体によつて明かであるから、ここには当然無効の場合につき論ずるものとする。従つてこの場合には昭和二十五年法律第一六七号による改正前商法第二五二条の場合と異り、之等の法条に準拠することなく民事訴訟法の一般理論により決せられるものとする)の確定しない限りは一応有効と看做されるのは当然であるから、故らにその有効の確認を求めることは所謂屋上更に屋を重ねるに過ぎず、利益のない訴であると謂わねばならない憾はあるけれども、単に被告として反訴を以て有効確認を求める場合とは異り、第三者が他人間の訴訟而も本件の如く被告において原告の主張を争わないためそのまま放置すれば、無効確認の判決は確定するの公算が大きい場合には(而もその判決が確定すれば所謂対世的効力によつて第三者も爾後該判決と矛盾する主張は出来なくなる)第三者に対しては一般民事訴訟法の立場から参加の道を認める必要がある。

而してその場合に民事訴訟法第六十四条の補助参加によつたのでは、本件の如く被告が原告主張を争わない場合には何等の効果なく、又決議の絶対無効確認の訴においてもその被告適格者は会社に限られると解する一般説に依れば株主、取締役その他第三者は被告として参加する適格はないものと謂うの外はない。そこでかような場合にこそ第三者は本訴訟の原被告を相手方とし自ら原告として該決議の有効なことの確認を求めうるものと解することは、民事訴訟法第七十一条その他の一般論に抵触するものではないと解する。

仍てこの点に関する原被告の抗弁は採用し難い。

(三)  次に参加人等は本件決議無効確認訴訟の結果により株主権の行使(殊に参加人原亀一、同菅野省三は共に取締役の地位)を侵害される虞があると主張し、原被告は之を争うけれども参加人久保正一が被告会社の一千株の株主であることは当事者間に争がなく、参加人原亀一、同菅野省三が本件決議において夫々取締役として選任せられ、その旨の登記を経了していることは原被告の主張自体によつて明かであるから(尤も参加人原亀一、同菅野省三が現に株主権を保有することは後段認定(第三(一)記載参照)によつて明かになるので、ここに之を援用する。)参加人等には参加するにつき法律上の利益があると謂わねばならない。又参加人等において現に株主権を保有することを前提として右決議の有効確認を求めることは、民法第一条にも反しないこと後段(第三(二)記載参照)叙述の通りであるから参加人等の参加申出は何等その要件を欠くものとは謂えない。

仍てこの点に関する原被告の抗弁も又到底採用し難く、参加人等の本件参加の申出は適法である。

第二、本訴原告の決議無効確認並に決議取消訴訟の適否について、

原告は請求原因事実摘示の通り第一に本件決議は株主権のない者の集合による決議であつて、何等意味のない当然無効のものである(請求原因第一(二)-参照)第二仮りに株主権があつたとしても決議数に対する影響の有無に拘らず、各一千株の株主なる亀井芳晴、岡田浩に対して故意に招集通知を発しないで開催した決議であるから当然無効である(同上第一(二)(2) 参照)第三、招集通知書に記載せる目的事項と異る決議をしたので取消の瑕疵がある。と謂うのであつて、第一の場合は決議の不存在の確認を求めるに帰し、第三の場合は決議の取消を求めるものと解すべきである。

次に右第二の請求につき考究するに、元来株主総会の招集通知は各株主に対して発せられなければならないもので、全然招集通知を発しなかつた場合には原則として株主総会自体の成立がないのであるから、従つてその株主の集会において為された決議は取消を待たずして当然に無効である。けれども単に一部の株主に対してのみ通知を欠いだに過ぎない場合の如きは、未だ株主総会の成立自体を害しないものであつて、その総会において為された決議も亦招集手続の違法として取消し得るに過ぎないものと解すべきである。尤も故意に一部株主に対して招集通知を欠く場合につき多少疑問がない訳ではないが、要は一部株主に対する通知の欠缺のために全然通知をかいた場合と法的価値の異らないような場合又はその株主の出席があつた場合には他の株主にも影響力を及ぼし総会の決議数に影響を及ぼしたのであろうような場合は格別、総会の決議数に影響のない場合には一部株主に対して招集通知をかく場合といえども、矢張りそれは招集手続の違背として単に取消訴訟の対象となるに過ぎないものと解すべきものとする。而して右亀井、岡田は四万株中各一千株の株主であることは当事者間に争がないところであつて原告の全立証によるも右亀井、岡田の出席があつたならば本件決議の結果につき影響を与えたであろうことは認め難いものである。

仍て右第二の請求も結局取消の請求をしたに帰する。

(一)  仍て先ず右第二、第三の取消の訴訟について原告の当事者適格の有無について判断することとする。(尤も本訴決議は後述する如く有効であると謂うべきであるから茲に便宜上取消訴訟の点につき判断を加えることとする。)

即ち原被告は原告が昭和二十五年四月二十六日参加人等から株式譲渡を受け、株主権を取得したことを主張して株主乃至は取締役として本件決議の取消を訴求していることは原告の主張自体によつて之を認めることができるところ、参加人は原告が株主権を取得したことはないと抗争するにつき按ずるに、

(1)  原告が所謂原始株主でないことは当事者間に争がない。而して原告主張の日時その主張の如く原告が参加人等より株式譲渡を受けて株主権を取得したことを前提として、少くとも会社に対してその株主権を主張することのできないことは後記叙述(第三(一)参照)の通りであるから、この点に関する原告の主張は採用し難い。

(2)  原被告は仮りに右株式譲渡が無効にして原告が株主でないとしても、原告は昭和二十五年六月十日の原始株主総会における有効な決議(以下第一決議と略称する)に基いて取締役に選任され次いで代表取締役に就任し、その旨の登記を経了して爾来本件昭和二十六年一月四日の決議(以下第二決議と略称する)に至るまで被告会社より之を承認されているものであると主張し、参加人等は右第一決議は当然無効であるから原告は取締役乃至は代表取締役の地位を取得しないものであると抗争するにつき按ずるに、

原告が右第一回決議に基いて取締役に選任せられ次いで代表取締役に就任し、その旨の登記を経了して第二回決議当時までに至つたことは参加人等の争わないところであるが、成立に争のない甲第一号証の一部と原本の存在並に成立に争のない丙第二号証同第六、第七号証、成立に争のない丙第八号証同第九号証の一、二、三、四同第十号証の一、二に弁論の全趣旨を綜合すれば被告会社は元昭和二十一年頃参加人原亀一と同菅野省三の協議に基いて新聞の発行販売業を創業し、爾来原亀一の個人経営として之を継続して来たものを昭和二十五年四月六日に至つて株式会社に組織替をしたものであるが、創立当初においては原亀一が三万二千株(代表取締役兼務)久保正一(監査役)野口朝徳、森田茂、亀井芳晴、岡田浩、中村高雄、原高俊、菅野省三は各一千株を所有し、合計四万株、一株の金額金百円、四百万円の資本額であつたこと、而して同年四月中旬頃原亀一は会社の財政的経営困難と自己の病気療養を理由に一時退任することを決意し、参加人久保正一を除くその余の株主の了解の上、原告武田勝市に対して事実上会社の経営一切を委任することとなり、(尤も昭和二十五年法律第一六七号による改正前商法第二四五条所定の株主総会の決議を経了した事乃至は追認決議のあつたことは認められないから、株式会社法上の所謂経営委任とは認め難いけれどもここには暫く別論とする)原亀一は昭和二十五年六月五日附代表取締役の辞表を提出し、同月七日経営委任に関する委任状を原告武田に交付したのであるが、その頃その委任事務の遂行を容易ならしめる手段として、当時の株主が所有していた株式三万九千株(参加人久保正一所有の一千株を除くその余のもの全部)に対する各株主作成の株式名義書換に要する白紙委任状(但し株券は未発行である)を原亀一の辞表と共に原告武田に交付したこと、而して右原告武田は更に右委任事務を遂行する上において対外的にも代表取締役の登記を経了することが便宜であるところより、該登記を経了するためその手続を野口朝徳等に一任し、同人においては右原始株主たる久保正一、原亀一、菅野省三、森田茂外五名に対する株主総会招集の書面を発送することもなく、又株主総会を開催することもないのに拘らず、たゞ当時株主で会社業務を執行していた経理局長野口朝徳、編集局長亀井芳晴、工務局長岡田浩、業務局長森田茂の四名が会社本店事務所に出勤していた関係上同人等四名の株主が出席したものとして各その署名捺印を得て甲第六号証の三の議事録等を作成した上該書類に依つて前記登記を経了した事を認めることができる。甲第二証(但しこの分は法定代理人の供述調書として採用する)同第三号証、同第四号証、丙第九号証の五中右認定に反する部分はにわかに措信し難く、他に之を動かすに足る資料はない。従つて右議事録は全く仮装のものであつて右第一の株主総会決議は所謂持廻り決議であると謂うの外はない。

仍て爾余の判断をまつまでもなく該決議は当然無効のものであると謂うの外はない。

従つて右当然無効の決議において選任されたとする原告の取締役選任も亦当然無効であり、従つてこの事を前提とする代表取締役の互選も亦当然無効のものと謂うべく、原告は当初より取締役乃至は代表取締役でなかつたことに帰するものと謂うべく、従つて原告は本件取消訴訟の原告たる適格はないものと謂うの外はない。

仍て原告の本件訴訟の中前示第二、第三の取消訴訟の部分はその余の判断をするまでもなく不適法として却下すべきものとする。

(二)  次に前記第一の無効訴訟における原告の当事者適格について元来決議の当然無効(実は決議の不存在確認)の訴訟は何人よりも提起しうるものであつて、唯該決議の無効確認判決の結果により法律上の利害関係を持つていることを要するものであるところ、原告は前記認定の通り昭和二十五年六月十日被告会社の取締役に選任せられ、次いでその代表取締役に互選せられその旨の登記を経了し之に就任し、爾来本件第二決議当時まで事実上会社代表者としてその業務を執行して来たものであるから該決議の無効判決の確定につき直接法律上の利害関係を持つことが明かであるから該訴訟において当事者適格ありと謂うべきである。

第三、本案について、

(一)  本件昭和二十六年一月四日の株主総会決議は不存在(原告の所謂当然無効)であるか否を判断する。

昭和二十六年一月四日監査役久保正一(参加人)の招集による株主総会において武田勝市(原告)の取締役を解任し、原亀一、菅野省三(共に参加人)を各取締役に選任する旨の決議ありとする決議録を作成して同月六日その旨の変更登記を経了したこと、右総会は監査役久保正一の招集によるもので出席者は久保正一、菅野省三、野口朝徳、森田茂(以上各一千株)であつて他に原亀一(三万二千株)中村高雄(一千株)は各委任状を提出して決議権を行使し亀井芳晴、岡田浩は各欠席で開催されたこと、而して四万株の内三万七千株(原告の主張は三万八千株と主張するも明かな誤りである)を以て該決議を可決したものであることは当事者間に争がない。

而して原被告は原告において昭和二十五年四月二十六日原始株主原亀一等より久保正一の一千株を除く残り三万九千株の株式について所謂白紙委任状附で対価を以て株式譲渡を受けたもので、右白紙委任状には株券発行後の交付請求権と名義書換請求権を包含するものであつて、右一月四日の決議当時は既に右決議に参加した者等は株主権を喪失していたものである旨主張し(請求原因第一(二)(1) 参照)参加人等は昭和二十五年四月中旬頃原亀一の病気療養と会社の財政的困難を理由に参加人原亀一等は原告に対し事実上一時会社の経営一切を委任することとなり、原告のその委任事務処理の便宜上原告主張の如き白紙委任状を原告に交付したことはあるが、右は株式譲渡の要件を欠くものであり、仮譲渡が認められるとしても株券発行前であるから会社に対しては効力を生じないものである、従つて後に株券の発行があつたとしても譲渡の効力は生じない旨抗争する(参加人の請求原因(2) 参照)につき審究するに、

前記認定の通り被告会社は昭和二十五年四月六日設立登記を経了して原亀一の個人経営より会社組織に変更されたものであるが、その後同年四月中旬頃原亀一は自己の病気療養と会社の財政的困難との理由によつて一時会社を退任することを決意し、久保正一を除くその余の全部の原始株主の了解の下に原告に対して事実上会社の経営一切を委任することとなり、同月二十六日頃原亀一等(久保正一を除く)の原始株主全員よりその株式について白紙委任状を原告に交付したことは当事者間に争がない。

而して成立に争のない甲第二号証(法定代理人の供述調書として採用する)同第三号証原本の存在並に成立に争のない丙第六、七号証及び成立に争のない丙第一号証同第八号証同第九号証の一、二、三同第十号証の一、二並に弁論の全趣旨によれば右白紙委任状は株式名義書換に関する白紙委任状であること及び株券の一般発行があつたのは昭和二十六年三月中であることを認めることができる。

従来の商慣習法上は記名株式は株券又は株券発行前においては株式申込証拠金領收証に名義書換に関する白紙委任状を附して転輾譲渡されており、右は共に株式譲渡の効力を肯定されているものである。しかしながらただ後者の場合には会社に対しては対抗し得ないものと解されていた(従つて会社の側から譲渡を承認するときは会社に対しても譲渡の効力を主張し得るものである)のであるが、本件の如く株券発行前における単に名義書換の白紙委任状のみ(株式申込証拠金領收証を伴わないもの)による譲渡の効力については右と同様に論ずることは出来ないものと解するのであるが、仮りに譲渡人譲受人間においては譲渡の効力があると解するも昭和十三年法律第七二号による改正商法第二〇四条第二項の下においては、株券発行前における株式の譲渡は会社に対する関係においては何等の効力をも生じないものと解すべきものとする。右の効力は後日会社から株式の一般発行がなされた場合においても、何等の消長を生ずるものではない。原告主張の如く株券発行前における株式の譲渡は会社に対する関係において潜在的な効果を生ずる。言いかえると株券未発行ということによつて効力の発現をおさえつけられており、これがなくなると現実の力となり得るところの効果を生ずるとの見解には左袒し難いところである。従つて爾余の点に判断を進めるまでもなく原告は会社に対する関係においては株主権の取得を主張することはできない。即ち会社に対する関係においては依然原始株主を以て株主権ありと謂わなければならないものである。因に右の如く解する一、二の理由については右商法改正の経過その他法律の立言等を先ず参酌されなければならないと考えるものであるが、右改正前においては株券発行前における株式の譲渡は会社には対抗し得ず(ただ指名債権に関する民法第四六七条に規定する手続を為せば会社に対抗し得るものと解する)と解せられていたところ、右改正に当つては第二〇四条第二項を以て同法第一九〇条の所謂権利株の譲渡に関する規定と同じく「会社ニ対シ其ノ効力ヲ生ゼズ」との文言を用いている以上「会社ニ対抗シ得ズ」とは違うものと解せざるを得ない。又商法第二〇四条第二項の立法趣旨は速かにとり行われるべき会社の株券発行の事務を株主の更替によつて患されることのないようにするため、譲渡当事者からは勿論会社からもこれをとりあげることによつて発券事務渋滞の弊をなからしめようとの考慮に出たものであることは勿論であるが、それはただ発行前に限らず株券の一般発行がある場合においても先ず株券の発行を受けた上対抗要件を充すべきものであるとの理由の下に「会社ニ対シテ効力ヲ生ゼズ」と規定したものと解する。

叙上説示によつて本件株主総会の決議に参加した前記原亀一等の原始株主は何れも株主権を喪失していたものとは謂い難く、少くとも本件決議当時乃至は本件訴の提起当時は勿論とする。依然株主としての地位を保有していたものと謂わねばならない。仍てこの点に関する原告の主張は採用し難く、従つて本件決議は正当な株主による総会に基くものであつて該決議は有効に存在するものと謂わねばならない。

(二)  本件決議は公序良俗乃至は信義則に反し権利の濫用となるか否について判断する。

(1) 被告会社の設立並にその構成、会社と原亀一、菅野省三等との関係及び原亀一等より原告に対する被告会社の経営の委任の(委任は単に事実上のものである)経緯並にその委任の際における当事者間の合意の内容等の点は前記認定(前示理由説示第二(一)(1) (2) 、第三(一)参照)の通りであること。

尚右経営委任当時被告会社は相当多額の負債を持つていたことと原亀一の病気のために経営に頓挫を来し、廃刊の危急に直面していたものであつて、更に経営を継続するためには差当り三月、四月分の労務賃、用紙インキ諸材料代金、通信費、電話電信料、失業保険、健康保険料等の未払金並に活字、写真機、輪転機修理費等合計約五百九十余万円の資金を調達しなければならない状況にあつたこと。原告が右経営を引受けるに至つた事情は被告会社の事業が地方日刊新聞業であるのでこれを存続せしめること、当時百名を超す従業員の給料未払、失業及び失業保険料の未払等の点を考慮して地方有志の応援を得られるということで、原亀一等その他有志の懇望によつて之を引受けるようになつたものであること。その結果久保正一を除くその余の株主全部の株式について名義書換の白紙委任状の交付を受け、又その頃原亀一の代表取締役の辞任届の交付を受けて原告は代表取締役に就任しその旨の登記を経了し、爾来被告会社の代表取締役として八方有志の援助を受けて前記五百数十万円の負債を支払い、銀行その他資材の買入先に個人保証責任を尽して該新聞業の再建に努めていたことは当事者間に争がない。而して昭和二十六年一月四日原亀一等は本件株主総会を開いて原告の取締役を解任し、原亀一、菅野省三を夫々取締役に選任する旨の決議をして次いで原亀一を代表取締役に互選して、その旨の登記を経了したことは前記認定の通りである。

(2)  而して原被告は先に大部分の株式を譲渡し代表取締役に就任せしめておきながら、原亀一等が右譲渡の効力を否認し、延いては原告の代表取締役の地位を剥奪しようとするのはたとえ株式譲渡が無効であつたとしても、それは信義則に反し公序良俗に反するもので権利の濫用であると主張し、参加人等は之を争うのであるが、前叙の通り当初原亀一等より原告に対し事実上会社の経営一切を委任することとなり、原告において事実上その事務処理に当つてきたものであるが、その事務処理の便宜上原亀一等大部分の株式を白紙委任状附で譲渡することを約し、又代表取締役の登記をも経了したものであるが、右株式譲渡は少くとも会社に対する関係においては到底効力を生ずるに由なく、又取締役の選任決議延いては代表取締役の互選行為も法律上当然無効のものである。従つて原告は株主権の取得乃至は代表取締役就任の点自体については法律上之を主張し得ない立場にあるのみならず、原本の存在並に成立に争のない丙第三号証の一、二、三、五乃至六同第六、第七号証、成立に争のない丙第八号証同第九号証の一、二同第十号証の一、二と弁論の全趣旨を綜合すれば右経営委任契約の内容を明確に確定せずして委任事務の処理を始めたこと、原亀一は右経営委任の当初は被告会社より生活費、療養費として月金三万円次に一万五千円、次は七千五百円位交付を受けていたがこれが中絶したので、之が継続給付を交渉するも原告において之を承認せず、爾後更に交付するの意思がないことが明かになつたこと、その他原亀一等の側において原告を信任することが出来なくなつた関係上、大部分の株主より原告に対し昭和二十五年十二月二十日附で事実上経営委任を解消する旨の通知を発した事情のあることを認めることができる甲第二号証(法定代理人の供述調書として採用する)同第三号証中右認定に反する部分は措信し難く他に之を動かすに足る確証はない。従つて本件決議は右委任解消後にされたものであることを知る。尤も当初の経営委任契約自体が株式会社法上の適法なものでないこと前叙説示の通りであるが、仮りに適法な経営委任があつたとしても元来委任契約は当事者相互の信任関係を基盤とするものであるから特約を以て解約権を放棄しない以上、委任者は何時でも委任契約を解約し得るものと謂うべきであつて、唯受託者の不利益な時期に解約する場合には委任者には報酬の支払又は損害賠償の責任問題が残つているのみである。

而して本件委任の解約権放棄の特約があることは原告の主張立証しないところであるから、本件委任契約は元来被告会社の株主総会の決議を以て何時でも解約し得る運命にあるものと謂うことができる。従つて本件決議によつて原告の受託事務遂行上支障を生ずることがあるとするも、それを以て直ちに本件決議を以て信託違反であると謂う事は困難である。

(3)  之等の事情を彼是考え合すときは、原亀一等の間においても非難すべき事由がないとは謂えないけれども本件決議をするに至つた動機、事情等も亦已むを得ないものがあると謂うべきであつて、結局右は信義則乃至は公序良俗に反して権利の濫用であるとは謂い難いところである。

仍てこの点に関する原告の主張も亦遽に肯認するに難いところである。

叙上の理由によつて参加人等の請求は正当にして原告の本訴請求は失当として之を棄却すべく、本件決議は有効であることを確定すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条、第九十四条、第九十五条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 橘盛行)

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